映画発祥の地はフランス人はフランスだとアメリカ人はアメリカだと思っているのだと思います。フランスの「リュミエール兄弟」もアメリカの「エディソン」も共に映画の父と呼ばれていますから。
その原理はどちらにしろ19世紀末に確立され、無声→トーキー→カラー→ワイドスクリーン→ビデオと発達して現在に至っているのですが…。
内容的にも娯楽的なものから芸術的なものまで幅広いのですが、1950年代末ごろに先ずフランスで実存主義の影響下いわゆるヌーベルバーグ運動が起こります。(ゴダールやトリュフォーが有名です)
少し遅れてアメリカでも1960年代半ばごろからアメリカン・ニューシネマと呼ばれるものが登場してきます。
それまでの映画が描いてきた善人はあくまで善人、悪人はあくまで悪人と言った描き方を廃して、善人と呼ばれる人たちも、悪人と呼ばれる人たちも人間として描くという描き方をするという運動だと自分なりに解釈しています。
また、無名に近い映画人が低予算で作りたいものを作るという特徴を持っています。
その先駆けとなったのが「俺たちに明日はない (1967年 アーサー・ペン監督)」です。
まさに実在の銀行強盗のボニーとクライドの実像を描こうとした作品です。
それまでは犯罪者が生き生きとした人間として描かれたことが無かっただけに、観客は衝撃を受けたのです。
アカデミー助演女優賞、撮影賞受賞です。
当時名優の名をほしいままにしていたシャーリー・マクレーンの出来の悪い弟と呼ばれていたウォーレン・ベイティが1961年の草原の輝きに続いてヒットさせてもうシャーリー・マクレーンの弟とは呼ばせないと言わしめた記念碑的作品でもあります。(草原の輝きは好きな映画のTOP10に入る映画で大好きなナタリー・ウッドの主演でもありますのでまた別の機会に)
「卒業(1967年 マイク・ニコルズ監督)」は花嫁強奪をやってのけるダスティン・ホフマンが実に印象的に登場します。
マイク・ニコルズがアカデミー監督賞受賞で、サイモンとガーファンクルを一躍有名にした映画でもあります。(当時一番のご贔屓の女優さんのキャサリン・ロスが奪われる花嫁です)
「明日に向かって撃て!(1969年 ジョージ・ロイ・ヒル監督)」これは今までの西部劇の作り方を変えてしまうほど強烈な印象を観客に与えました。実在のブッチ・キャシディーとサンダンス・キッドとその恋人エッタ・プレイスを描いた作品です。アカデミーは主題歌賞のみです。
このときサンダンス・キッドを演じたロバート・レッドフォードがその名前を冠した「サンダンス映画祭」を主催し、若い映画人の育成に力を尽くし、自らも映画制作に今も携わっているのは有名な話です。(またまた、当時一番のご贔屓の女優さんのキャサリン・ロスがエッタです)
「イージー・ライダー(1969年 デニス・ホッパー監督)」
かの名優ヘンリー・フォンダの息子、ジェーン・フォンダの弟(実は私の好きなブリジット・フォンダのお父さんなんですが)主演で出来の悪い馬鹿息子の汚名を返上したので有名です。なんとあのデニス・ホッパーが監督しおまけにあのジャック・ニコルソンまで出ています。
まあ、反社会的を絵に描いたような中身で、アメリカン・ニューシネマというと私はこの映画が先ず頭に浮かびます。
特にコカインの密売で大もうけした主人公達が腕時計をすて、金があれば自分達はもう時間に縛られないと象徴させるシーンを今でもよく思い出します。アカデミーはノミネートだけで無冠です。
そして1969年にもう1本「真夜中のカウボーイ(1969年 ジョン・シュレジンジャー監督)真夜中のカウボーイとは肉体美だけで都会では生活できると信じたジョン・ボイド演じるカウボーイとイタリア系移民の詐欺師(ペテン師)のラッツオ(鼠)ことダスティン・ホフマンのお話です。(夢のフロリダまでは遠いのです…)見事アカデミー作品・監督・脚本賞受賞の傑作です。
「フレンチ・コネクション(1971年 ウイリアム・フリードキン監督)」
暴力警官ポパイがフランスがらみの麻薬密売組織を追い詰める物語です。
あのジーン・ハックマン、「俺たちに明日はない」で主人公の兄役で出ていましたがこの作品でいきなり主演男優賞を受賞。まさに何でもできる俳優として大活躍していくのきっかけを作った作品です。クリント・イーストウッド監督の「許されざるもの」でも助演男優賞を受賞しています。
この作品自体はアカデミー作品・監督・主演男優・脚色・撮影の5部門受賞の傑作です。
「カッコーの巣の上で(1975年 ミロッシュ・フォアマン監督)」ではジャック・ニコルソンが粗暴がゆえに精神病院送りにされる主人公を好演しています。アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、脚色賞の主要5部門獲得の快挙をなしています。
監督のミロッシュ・フォアマンはチェコの出身ですが、いわゆる「プラハの春」のソ連のチェコ侵攻でアメリカに渡りアメリカ市民権を獲得した映画監督です。後に「アマデウス」でもアカデミー監督賞を受賞します。
そして、同じ年に少し精神を病んだ元海兵隊員を描いた「タクシードライバー(1975年 マーティン・スコセッシ監督)」で ロバート・デニーロ登場となります。またこの映画では13歳の娼婦役でジョディ・フォスターが出ているのも話題となりました。
パルム・ドールは取ったのですがアカデミーでは無冠です。
この映画「タクシードライバー」が最後のアメリカン・ニューシネマと言われています。
主な作品は以下です。(制作年 題名 監督)
1967年 俺たちに明日はない アーサー・ペン
1967年 卒業 マイク・ニコルズ
1968年 ワイルドバンチ サム・ペキンパー
1969年 イージー・ラーダー デニス・ホッパー
1969年 明日に向かって撃て! ジョウジ・ロイ・ヒル
1969年 真夜中のカウボーイ ジョン・シュレジンジャー
1970年 いちご白書 スチュワート・ハグマン
1970年 ファイブ・イージー・ピーセス ボブ・ラフェルソン
1971年 フレンチ・コネクション ウイリアム・フリードキン
1973年 破壊! ピーター・ハイアムズ
1973年 ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー ジョン・ハウ
1975年 カッコーの巣の上で ミロシュ・フォアマン
1976年 タクシードライバー マーティン・スコセッシ
何れもいわゆるヒーローの登場しない映画で強盗だったり詐欺師だったりヒッピーだったり暴力警官だったりします。
こう見ていくと結局自分の撮りたいものは何なのか?自分の演じたいものは何なのか?と問いかける運動であったのかもしれません。
それはまさに映画に限らず創造的な仕事の原点といえるのだと思います。
それを忘れたところに真実は見えてこないし、人々は評価してくれないのでしょう。だからテーマの向いている方向は偏見や権力の横暴や反共や公民権運動や人種差別だったりします。
また、監督や俳優が実はマイノリティーだったりすることが多いですが、これはやはり、以前「硫黄島からの手紙」でも書いたように、真に困難な境遇に遭遇した人は真実は一つではなく、ある真実の反対側に同じ量と質をもった別の信実が存在していることに気が付くきっかけを生来持っているということなのかもしれません。
時代背景がそのようなものを描かせたということもあるでしょう。
1963年にケネディー大統領が暗殺され、公民権運動が盛んに行われ、1961年にベトナム戦争が勃発し1973年に終結するまで泥沼のような状態だったことは良くご存知だと思います。1969年にアポロ11号の月着陸が明るい話題とされましたが、軍事技術の発展と表裏一体なのです。
いうなれば強いアメリカに影が差した時代と言えるのではないでしょうか。
これを書くのを思い立ったのは最近久しぶりに「明日に向かって撃て!」を見たからなんですが、ベトナムをイラクに置き換えたら今の時代に少し似ているようにも思います。
2001年の9.11事件、泥沼化するイラク戦争とそれをやめようとしない大統領。
しかし、成果の上がらない戦争に対しての苛立ちや、戦争そのものに対する嫌悪感は同じでも、冷戦時代の終結を受け、向いている方向が独裁政権やテロリズムになっています。
(決して怒りをイスラムに向けてはなりません。イスラム=テロリズムが何故か非イスラムの人たちに刷り込まれてしまっている今日の状況です。それは北朝鮮=朝鮮人=悪の枢軸と似ていますが決して間違えてはいけないことです!!)
しかし、クリント・イーストウッドがやったようにイスラム(ミスリム)の視点から今を描くということを近いうちに誰かがやるかもしれません。
そしてその意味ではアメリカはそれくらいの度量のある国であってほしいものです。
来年2008年は大統領選の年で、ここがかなり色々なことのターニング・ポイントとなると思います。
さて、映画の話に戻りますが、昨年クリント・イーストウッド監督が硫黄島2部作を撮ったのはやはりイラク戦争と無関係ではないと考えます。
彼は、共和党員ですが、どちらかといえばリベラルな考え方の人で、また実際に朝鮮戦争で従軍経験もあり戦争自体の悲惨さは身をもって体験している人です。
自分の描きたいもの=描かなくてはいけないものを描くという点でもそうですし、映画制作費的にも低予算で見事な映画が作れることを再度証明したような映画だという意味でもニューシネマ時代の映画と似ているとは思います。それを、娯楽映画の象徴のような「ダーティー・ハリー」のクリント・イーストウッド+「SFXの映画小僧」のスティーブン・スピルバーグがやったわけです。
反対に最後のニューシネマと言われる作品を撮ったマーティン・スコセッシが「大予算化」「アイデアの枯渇→リメイク」の象徴のような「ディパーデット」(インファナルアフェアのリメイク権を史上最高額でブラッド・ピットが獲得したことは有名ですが)ニューシネマ常連のジャック・ニコルソン(「イージーライダー」や「カッコーの巣の上で」に出演)などを使って撮る。実に奇妙な現象が起こっています。
「硫黄島からの手紙」はすでにナショナル・ボード・オブ・レビュー賞作品賞、第32回ロサンゼルス映画批評家協会賞最優秀作品賞、ゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞しています。
第79回アカデミー賞は「硫黄島からの手紙」「ディパーデット」は作品賞にも監督賞にもノミネートされています。さあ、どれが選ばれるのでしょうか?興味深いところです。
まあクリント・イーストウッドの3回目の監督賞受賞はわかりませんが、作品賞は「硫黄島からの手紙」がとり「ディパーデット」はご苦労様でマーティン・スコセッシが妥当な線のような気がしますが。
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