私的中国史講座~第10回~
頭の「中国歴史映画を見るための」を今回からはずして「私的中国史講座」とします。
まあ中身は同じようなもので映画にこだわらず中国と小説、漫画、古典、などなど色んなものについて語れるところは語っていこうかなと、ぼやくところはぼやいていこうかと思っております。
じつは、一つ前の記事その方向で書き始めたんですが、途中で変な方向に行ってしまってぜんぜん別の話になっちゃったんで「本屋の力量」なんて題名に変更しました。だからこれは本当は第11回なんですけど第10回です。(なんのこっちゃ)
まずは捜神記から一つ話題を拝借します。
六朝の捜神記の作者干宝(字は令弁)は西晋時代の人です。祖父が呉の将軍の干統で父は地方の官僚で終わった人のようです。ですから呉の出身です。呉の逸話がたくさん出てきます。例えば「ろくろ首」は呉の将軍の朱桓の周辺での話です。「諸葛恪の死」なんていうのもあります。国史の「晋紀」を著した人でもあるそうです。どうもかなりのめずらし物好きの人だったようで「捜神記」といういわゆる志怪小説も書いていたようです。
もっともこの本の解説によると志怪とは怪を志(しる)すということで、小説とは史書にも載らないような「取るに足りない話」ということで、特に今の小説とは意味が違います。(もしかしたら「晋紀」を書くに当たって入れられないようなものを集めてこの本にしたのかもしれません。とにかくいわゆる士大夫階級の知識人です)
中を見ると464個のこぼれ話が簡潔に書かれているだけです。一つ紹介すると「山中の怪」という話があります。
第7回で書いた諸葛恪(つまり呉の孫権に仕える諸葛孔明の甥)の話。
彼が、丹陽郡の太守だった頃の話で、狩の最中2つの山の間で子供のようなものが現れて人を引っ張ろうとしたと云う。諸葛恪は逆にこっちに引っ張り返した。子供は足場を離れると死んでしまった。部下達は「閣下は神通力をおもちじゃ」と感心したが、諸葛恪は「これは溪嚢(けいのう)という妖怪で山の間に出るものだ。そこから引き離せば死んでしまうと『白沢図』という本に書いてある。お前らが読んでないだけで、私に神通力があるわけではない」といういかにも諸葛孔明の甥っぽいことをいう話です。
まあ、こんな話が500弱書いてあるものです。
ただ、現代の作家達はここから話を膨らますネタ本としてよく使っています。
例えば漫画家の諸星大二郎なんかはこの六朝の「捜神記」や清代に書かれた「聊齋志異」いわゆる志怪小説が大好きなようで自分でもこんなのを作りたいって「諸怪志異」というシリーズで書いている。いまたぶん4巻まで出ている。その序で古めかしい文体で書いていますが要約しますと
「干宝が捜神記を書き、蒲松齢が聊齋志異を書いた。自分(横骨介士)も同じ事をしようとしたけど、あらかたこの二つの書物に書かれてしまっている。だから私はそれをネタ本にして新たな物語とすることによって、なんとか先人の好事家に並びたい」
ということで始めたらしい。
その「諸怪志異」の第1巻が「異界録」なのですが、まさに彼の序文のように上記の「山中の怪」を膨らませて表題作の「異界録」を書いています。
この話では最後に諸葛恪は死んでしまいますが、史実では孫権亡き後、呉では一番の実力者となったが、結構無謀なことをして結果的に孫峻らのクーデターで殺されてしまうらしいですが。
(多分この辺りは私のお友達の「みわさん」のほうが詳しいので、コメントでどんと語ってください。よろしく)
この「諸怪志異」は北宋時代(水滸伝の時代です)の話が多く、あえて主人公を作るなら五行先生と呼ばれる道士(まあ道教のお坊さんですね)と弟子の亜鬼(後に燕光 字を青眸 通称 燕見鬼)ですが、色んな話を確かに捜神記や聊齋志異のように書きながら、時々連続小説のようなものが入る話しです。ご興味ある方はどうぞ。
また、「半七捕り物帳」で有名な岡本綺堂もそのものずばり中国怪奇小説集の中に「捜神記」というのを書いています。これは有名な青空文庫で読めますのでご興味ある方はぜひご覧ください。でも残念ながら「山中の怪」は入っていないようです。どうもいわゆる「百物語」みたいなのをやって、中国の志怪小説全体を語るという趣向の小説です。まあ何せ戦前の文書ですので今の小説のようには行きませんが、原本の捜神記よりはずっと読みやすいです。「山中の怪」はないけど、「ろくろ首」の話はいきなり出てきますので。江東ファン三国志の「呉」のファンの方にはとくにお勧めかも。
今回はここまで、次回は何が出てくるかは解りません。
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